雑居ビルを住宅へリノベーションするとき、最初に壁になるのが給排水の縦配管と水圧です。
同時に使うキッチン・浴室・洗濯に十分な流量が届かなければ、快適さは得られません。
一方で、排水は勾配と通気が不足すると、逆流や臭気の原因になります。
本記事では、直結増圧・受水槽・加圧給水の違い、勾配や床上げの判断、漏水対策と試験まで実務の勘所を分かりやすく整理しました。
雑居ビルの特性を踏まえ、将来の更新や管理まで見通した配管計画を一緒に考えましょう。

 

雑居ビルの配管を住宅化に流用できるか|縦配管・揚水方式の前提整理

住宅化の成否は、既存の立て管(PS/DS)と揚水方式の把握から始まります。
まず竣工図・設備図・系統図を確認し、現地で立管の位置・口径・階別分岐を照合します。
壁芯寸法や梁型、PS寸法がタイトだと新設ルートが通らないことがあります。

次に、建物が直結直圧・直結増圧・受水槽+加圧のいずれかを採っているかを確認します。
直結は維持管理がシンプルですが、上階での同時使用時の圧力低下に注意が必要です。
受水槽方式は給水安定性が高い反面、**衛生管理(清掃・水質)**や更新費がかかります。

参考:制度や衛生管理の考え方は**国土交通省「給水装置基準」**等の一次情報で確認しましょう。
e-Gov法令検索→「建築基準法施行令」で関連条項を都度参照できます。

内部リンク(関連補完):→適合リノベーション住宅のメリット早見表|マンションR1/一棟R3/戸建R5の選び方と確認ポイント(制度視点の補完)


既存図面と現地調査|立管位置・径・階別分岐の把握

給水は口径×圧力×同時使用率、排水は勾配×径×通気が要です。
PS内で階ごとに枝分かれしている場合、将来の増設に備え点検口を計画し、交換時の引抜きスペースを確保します。
梁・柱・耐火区画の貫通部は貫通処理防火措置を忘れず、図面と現場で二重確認します。

外部リンク:
・→「建築基準法施行令 第112条防火区画

・→「建築基準法施行令 第113条木造等の建築物の防火壁

・→「建築基準法施行令 第114条 建築物の界壁


ポンプ・受水槽の有無|直結可能性と水質管理

直結増圧は増圧ポンプユニットにより安定圧を確保できます。
ただし騒音・振動が居室に伝わらぬよう、防振架台遮音囲いを併用します。
受水槽方式は定期清掃水質検査が前提で、衛生管理計画が不可欠です。

内部リンク(騒音対策の補完):→【2025年版】会議室から執務室まで!オフィス防音工事の費用と効果


配管ルートの物理制約|梁・耐火区画・シャフト容量

梁下を横走りする長い配管は逆勾配のリスクがあります。
避けられない場合は、床上げで勾配を確保し、同時に遮音置床で生活音を抑えます。
耐火区画を貫通する箇所は不燃充填材+防火ダンパーで区画性能を維持します。

外部リンク:建築プレミアム→建築基準法施行令 第126条の2(排煙関連)(区画と連携する考え方の参照)

給水の成立条件|直結増圧・受水槽・加圧給水の選び方

住戸の快適さは同時使用時の流量と安定圧で決まります。
既存の給水方式を前提に、直結直圧/直結増圧/受水槽+加圧の三択を比較し、生活シーンのピーク流量に合わせて選定します。


直結直圧/直結増圧の違い|圧力・流量・同時使用率

直結直圧はシンプルで停電時の復旧も早い一方、上階では同時使用で水圧低下が起きがちです。
直結増圧は定圧運転でシャワーの体感が安定しますが、ポンプ騒音に配慮が必要です。
生活同時使用率(例:朝の洗面+洗濯+キッチン)を想定し、ユニットの揚程・流量を決めます。


受水槽方式の留意点|衛生管理・更新費・省スペース化

受水槽は給水の安定性が高い反面、清掃・点検・更新が必須です。
小規模建物なら省スペースのパネルタンクも選択肢になります。
槽の更新時期に合わせて配管更新や弁交換も同時に計画すると効率的です。


加圧給水ユニットの選定|必要揚程・騒音・防振計画

加圧ユニットは必要揚程=静水圧+配管損失+安全余裕で算定し、変速運転で省エネ化します。
設置はPS内で行い、防振ゴム・アンカー水撃防止器を組み合わせて騒音・振動を抑えます。
集合住宅化する場合は夜間運転音がクレーム化しやすいので、設置位置と遮音を入念に検討します。

排水の成立条件|勾配・通気・床上げの限界を見極める

排水は自重流+通気が基本です。
長距離の横引きや段差解消のための床上げは快適性に影響するため、早期に成立性を判定します。


器具の高さと勾配|長尺配管・逆勾配を避ける納まり

排水横引きは一般に勾配1/50〜1/100が目安です。
キッチン移設で長尺になる場合、中間桝チーズで折り返しを作り、掃除口を要所に設けます。
浴室は床上げ高さドア段差バリアフリーの整合をチェックします。


通気の基本|ループ通気・局部通気・立て管通気

臭気逆流やサイホン切れを防ぐには通気管が有効です。
器具ごとに局部通気を足す、またはループ通気で負圧を逃し、立て管に戻します。
PSが不足する場合はスリムダクト耐火内装ボードで納まりを工夫します。


床上げの判断基準|段差許容・防音・天井高との兼ね合い

床上げは勾配確保に有効ですが、段差許容・天井高遮音とのトレードオフです。
置床+吸音マットL値を意識しつつ、必要最小限の高さで成立させます。
段差は玄関等で吸収するか、スロープで解消して生活動線を損ねないようにします。

内部リンク(遮音の考え方補完):→【2025年版】会議室から執務室まで!オフィス防音工事の費用と効果

漏水・逆流・騒音リスクを抑えるディテールと試験

配管事故は工事中の検査不足ディテールの甘さから起きます。
止水・貫通・支持を丁寧に仕上げ、記録化した試験で引渡し品質を担保します。


スラブ貫通部の止水|スリーブ・シーリング・防火措置

スラブ貫通はスリーブ先行+隙間シールが基本です。
防火区画部は不燃モルタル+火止材で性能を確保し、マンセル色の違いで点検しやすくします。
仕上げ前に写真記録を残し、後日の漏水調査に備えます。


耐圧・通水試験の実施|記録化と引渡し品質の担保

耐圧試験(給水)と通水試験(排水)は区画ごと/系統ごとに実施し、結果を検査記録として残します。
器具接続後も目視点検+試運転を行い、跳ね水・漏れ・異音をチェックします。
引渡し書類に試験成績書を添付して、将来の修繕判断に役立てます。


配管騒音対策|遮音ボックス・防振支持・吸音材

トイレや縦管周りは遮音ボックス化固体伝搬音を抑えます。
防振ハンガー・ゴムブッシュを併用し、壁内に高密度グラスウールを充填します。
集合住戸化を視野に、夜間の使用音に配慮した仕様にするとクレームを防げます。

複数住戸化に向けたメーター・保守計画と将来更新

メーター分割・検針動線は、区分所有や賃貸運用で重要です。
共用部に新設する場合は管理規約の承認が前提となり、避難経路や意匠と干渉しない計画が必要です。


メーター分割と検針動線|共用部同意と設置位置

PS前面・共用廊下の隅角部など、通行障害にならない位置にメーターをまとめます。
検針員のアクセスを想定し施錠方法個人情報保護も整理します。
分割に伴う基本料金の増加も収支計画に織り込みます。


清掃・点検のアクセス|点検口・PSの確保

キッチンやユニットバス周辺に点検口を配置し、通気接続部へアクセスできるようにします。
PSは幅300〜450mmを目安に、将来の管交換に備えます。
共用部を止水する作業の段取りも、管理会社と事前に合意しておきます。


長期修繕の視点|更新スペース・共用停止の段取り

ポンプや受水槽の更新周期を見込んだ搬入・搬出経路を確保します。
共用停止が必要な作業は夜間・休日に計画し、連絡体制一斉放流テストをセットで組みます。
長期では配管材の更新サイクル錆閉塞の監視方法を決めておきます。

内部リンク(住まい視点の補完):


※制度・基準類の参照先(一次情報)→

まとめ

雑居ビルの住宅化では、縦配管の把握と給水方式の選定が要です。
直結・増圧・受水槽の特性を踏まえ、同時使用時も水圧が落ちない計画にすることが快適さを左右します。
排水は勾配と通気を守り、床上げや遮音とのバランスを丁寧に調整しましょう。
仕上げ前の止水・防火・耐圧・通水試験を記録化すれば、漏水・騒音トラブルを未然に抑えられます。
将来の更新・検針・保守まで視野に入れたルート計画で、長く安心して住める住戸が実現します。

内装設計はリクテカデザイン

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